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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1057号 判決

控訴人

小川平吉

右訴訟代理人弁護士

栗脇辰郎

被控訴人

株式会社進栄器械店

被控訴人

村上仁吉郎

右両名訴訟代理人弁護士

伊賀満

右輔佐人弁理士

北村宇吉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人村上仁吉郎は、別紙(一)記載のガーゼ消毒器を製造、販売してはならない。被控訴人株式会社進栄堂器械店は、前項記載のガーゼ消毒器を販売してはならない。被控訴人らは、控訴人に対し各自金四〇〇万円を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。(以下省略)

理由

一  控訴人が登録番号第五三三、六三七号「ガーゼ消毒器」の実用新案(以下「本件実用新案」という。)の権利者であること、右実用新案登録出願の願書に添附した説明書中「登録請求の範囲」の項には、「図面に示す様に、罐体1内に内壁とやや間隙を設けて内罐2を設け、その間隙を水室3となし、内罐2の上面4を罐体1の上縁に接着し、罐体1に注水管3を連着し、罐体1の上方一部より蒸気管6を出し、その下方を罐体1の下面に於て環状部7となし、その他端8を内缶2に連通し、内罐2の底面より罐体1の外部に排気管9を突出し、罐体1の上面に中空となせる蓋体10を開閉自在に取付けてなるガーゼ消毒器の構造」と記載され、別紙(二)記載のような図面が記載されていること、及び被控訴人村上仁吉郎が別紙(一)記載の構造を有するガーゼ消毒器(以下「本件ガーゼ消毒器」という。)を製造して、被控訴人株式会社進栄堂器械店に販売し、同被控訴人がこれを他に販売していることは、当事者間に争いがない。

二  前掲当事者間に争いがない本件実用新案における登録請求の範囲の記載に、成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)を合わせ考えると、本件実用新案は「ガーゼ消毒器」の構造に関するもので、その考案の要旨は、

(一)  罐体内に内壁とやや間隙を設けて内罐を設け、その間隙を水室となし、内罐の上面を罐体の上縁に接着したこと

(二)  罐体に注水管を連着したこと。

(三)  罐体の上方一部より蒸気管を出し、その下方を罐体の下面において環状部となし、その他端を内罐に連通したこと。

(四)  内罐の底面より罐体の外部に排気管を突出したこと。

(五)  罐体の上面に蓋体を開閉自在に取り付けたこと。

(六)  蓋体を中空としたこと。

にあるものと解せられる。

控訴人は、右(六)の蓋体を中空とすることは、本件実用新案の要旨と全く関係のない附随的事項にすぎない旨主張するが、前掲甲第二号証(本件実用新案公報)によると、本件実用新案の説明書中「登録請求の範囲」の項には、「……罐体1の上面に中空となせる蓋体10を……取付け」と記載し、また、「実用新案の説明」の項末文には、「尚在来の消毒器に於ては蓋が一重にして外面は直接外気に触れて居り、そのため消毒器内の高温により蓋の下面に水滴が生じ易い欠点あり。然るに本案に於ける蓋体10は之れを中空となし、内罐2内の高熱を直接蓋体10外の外気に作用せしめず、そのため実験の結果蓋体10の下面に水滴を生ずること少く、故に使用に有利である。」と記載され、図面にも罐体1の上面に「中空とした蓋体10」が明示されていることが認められる。一方右「実用新案の説明」第三文には、「本案品はガーゼ、白衣、布類等を滅菌消毒するに使用するものであり、注水管5により水室内3に注水し、上記の如く滅菌消毒をなすべきガーゼ、白衣、布類等を内罐2内に容入し、罐体1の上部に蓋体10を密閉し、罐体1の下面より燃焼器13により加熱するもので、その加熱により水室3の水は沸騰し、その蒸気は蒸気管6より環状部7に注入され、その環状部7にて更に加熱され高温なる蒸気となり、内罐2内に導入される故に内罐2内は極めて高温となり、至て湿度を含むこと少きものとなり、内容物をその高温により短時間内に滅菌消毒をなし得て、その滅菌消毒した内容物は在来の消毒器に於けるものの如く之れを更に乾燥する手数がない。(下略)」と記載され、右の特別の効果作用は、前記本件実用新案の要旨(一)ないし(五)の構造に基づくものとみられるが、(六)の蓋体を中空とした構造が、右の内罐2内の温度を高温に保ち、かつ、湿度を少なくすることにも寄与するものであることは、前段認定の右構造の効果に徴し、容易に推認できるところであり、右蓋体の構造は本件実用新案の前記要旨(一)ないし(五)の構造と密接な関連を有するということができる。さればこそ、右(六)の構造は、説明書中「登録請求の範囲」の項に記載され、その表わす作用効果も詳細に説明されたものと解せられ、余上の点を考え合わせると(六)の蓋体を中空とする構造は、本件実用新案の必須不可欠の構成要件と認むべきであり、控訴人主張のように本件実用新案の要旨と全く関係のない附随的事項とは到底解し難い(原審における証人(省略)の証言及びその成立に争いのない甲第六号証(同人作成の鑑定書)の記載は、当裁判所これを採用しない。)。

三  しかして、被控訴人らの本件ガーゼ消毒器は、「罐体1の上面に一重の蓋体10を開閉自在に取り付けたもの」であつて、蓋体を中空としていないことは、当事者間に争いのないところであり、その結果本件実用新案における蓋体を中空に形成したことによる前記の作用効果を期待しえないことはいうをまたない。したがつて、本件ガーゼ消毒器は、この点において本件実用新案の必須要件の一である(六)の構造を欠くものであるから、進んで他の要件を比較検討するまでもなく、本件実用新案の技術的範囲に属しないものといわざるをえない。

四  以上説示のとおりであるから、本件ガーゼ消毒器が本件実用新案の技術的範囲に属することを前提とする控訴人の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がないものというべきである。

よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべく、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。(裁判裁判官原増司 裁判官荒木秀一 武居二郎)

別紙(一)

被告らのガーゼ消毒器

添付図面第一図は縦断側面図、第二図は、第一図A〜A線の底面図である。

その構造は、罐体1内に内壁とやや間隙を設けて内罐2を設け、その間隙を水室3となし、内罐2の上面4を罐体1の上縁に接着し、罐体1に注水管5を連着し、罐体1の上方一部より蒸気管6を出し、その下方を罐体1の下面において環状部7となし、その途中に瞬間水装14を連結し、その他端8を内罐2に連通し、内罐2の底面より罐体1の外部に排気管9を突き出し、罐体1の上面に一重の蓋体10を開閉自在に取り付けたものである。なお、11は外筒、12は支脚、13は加熱器である。

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